2026.07.15 日常

「経営者目線がないとダメ」は本当か

「私は無能だ」と何回思ったことか。

経営者の目線で事業を伸ばせない自分は、Webマーケターとして、広告運用者として、仕事のできないダメなやつなんだ。そう真剣に思っていました。

会社全体の戦略とか、事業のロードマップとか、そういうものを理解した上で自分のWebマーケティング業務を位置づけたい。でも、全然できない。

たびたびSNSで見かける「経営者目線を持とう」という主張。これが自分にとって必要な能力であるとピュアに信じていた正社員の頃、それはそれはつらかったです。

でもこれって、誰にとって、なぜ必要なんでしょうか?

「経営者目線」って、本当に持ってほしいの?

私にはとても聡明な友人がいます。「そもそも、それって本当に問題なの?」といった問いかけが得意な榎本くん。彼とのXスペース「社会人のためのソクラテス対話」で、経営者目線についての違和感を投げかけてみました。

「経営者目線を持とう、って言葉をたまに聞く。これって本当に社員みんな身につけるべきなのかな?」

榎本くんの意見はこう。

「そもそも経営者目線を求めるなら、役員報酬も全員に出してくれって話だよ。本当に経営者目線を持ってほしいわけじゃないと思うんだよね。だってめんどくさいもん」
「言わなくても察して、勝手にいい感じに動いてくれる人がほしいだけなんじゃない?」

手厳しい。
でも、私も「そう感じてしまうケースはある」という意見を持っています。

「経営者目線」という言葉そのものが悪いとは思いません。会社のフェーズや目指すものなど、いろいろな背景があって「私たちの会社では、みんなが経営者目線を持とう」と合意しているケースもあるはず。

一方で、上位レイヤーにとって都合のよい言葉として使われているケースもあるんじゃないかなあ。

たとえば、会社としての方針を立てる。それを達成するために、追うべきKPIを設定して現場に下ろす。これはマネジメントを行う側の仕事だと私は思います。

そこをショートカットして、現場に「各自で経営者みたいに考えてくれ」と丸投げするんだとしたら、背負わせるものが重すぎる。

呪いをかけていたのは、自分だった

「あっ」と思ったのは、その後。

私の場合、そもそも誰からも言われたことがない。

所属していた会社からも、お客さまからも、「経営者目線を持ってください」と言われたことがない。
たまにSNSで見かけるだけ。「経営者目線を持てないやつはダメ」みたいな。
あれを毎回真に受けて、自分に呪いをかけていた。

一番しんどかった時期のことを思い出します。
広告運用のお手伝いをしていたときのこと。

「事業を拡大したい」とご相談をいただいたことがありました。ありがたい話です。ターゲットの再設定や、打ち出すべきメッセージの提案などからお手伝いさせてもらいました。

でも、数字は思うように伸びなかった。

お客さまの事業を拡大させられないのは、自分の広告運用がダメだからだ。そう思って、管理画面とにらめっこして、さじ加減を変えて、また数字を見る。

細かい改善は積み上がる。
でも、事業としては伸びない。

布団に入っても「どうやったら伸びるんだ」という悩みが頭の中で回り続ける。

すっかり疲れてしまいました。

フリーランスになって、なにもかも全部一人でやり始めて、やっと分かったことがあります。

一社員って、そもそも渡されていない情報が大量にある。
外部の支援業者なら、なおさら。

会社のキャッシュフローがどうとか、数年後を見据えてどんな投資をしているとか。全部が自分のところまで降りてくるわけじゃない。

情報が不足した状態で「自分は経営がわからないから、ダメなんだ」「経営者と同じ目線に立てないのは無能なんだ」などと思い込むのは、不健康です。

じゃあ、経営者目線はいらないのか

というと、そういう話でもないんですよね。

榎本くんの言葉がとてもよかった。
「会社がどういうルールで動いているか。株式とか、利益がどう配分されるかとか、そのゲームのルールを理解した上で、自己研鑽として経営目線に近づこうとするのは、すごくいいことだと思う。視点は確実に引き上がる。目指したい人は、やったらいい。」

そう。
目指したい人は、やったらいい。

「経営者目線を持て」と言う相手を信頼できるかどうかもポイントだ、と榎本くんは言います。

「損得を超えて『こいつは絶対に育て上げる』と本気で思っている人が言う『経営者目線を持て』がある。一方で、単に楽なマネジメントをしたくて言っている『経営者目線を持て』もある。同じ言葉でも、全然違う。10年後に本当に経営へ関わらせてくれる未来が見えているなら、その賭けに乗ってもいい。」

要するに、

という問いへの答えがYESなら、経営者目線を持とうと努力する。
そうでないなら、どこまでが自分に必要かを、立ち止まって考えていい。

自分が影響を及ぼせる範囲で、全力を尽くす

支援側の仕事を10年くらいやってきて、思うことがあります。

広告運用だけでどうにかできる範囲って、そんなに広くない。それだけで売上が劇的に上がって会社自体が大きくなる、みたいなことは、私はまず経験がない。
だから、いい意味で気にしすぎないほうがいい。

「いや、気にしてくれよ」という発注者さんがいたら、それができる人にお願いすればいいのです。

今の自分が影響を及ぼせる範囲は、ここまで。
その中で全力を尽くす。
その上や周辺には、また別のレイヤー・役割の人がいる。
自分は自分の持ち場で頑張るぞ、と思うことは、境界線を明確に引くことです。
線引きが自分の心を守ることは、大いにあります。

だから「経営者目線がないと市場価値が低い」みたいな話は、今後は話半分に聞くことにしました。

それが本当に求められていることなのか。
少なくとも私は、誰にも言われていない呪いを、何年もかけてやっと解いたところです。

ちなみにこの日の会話、後半は「じゃあ目標設定ってどう立てるのがいいの?」という話に流れていって、これがまた面白かった。長くなるので、それはまた次回!

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